所謂AC系である僕は、「ここではないどこか」を求めて、今までなんとか生きてきた気がする。
そして、「ここ」にある程度の充実感があって、「どこか」がある程度見えていたから、なんとかやってこれたのだと思う。
 
ずっと自分のいる場所に満足できなかったし、第一自分の立っている場所がよくわかっていなかった。
それに時間の流れが早すぎて、自分の居場所が変わりすぎていて、そのことさえ真面目に考えてなかった。
 
 
この一年は何もしなかった。
ルーマニア生活を除けば、毎日大学に行って勉強をして、一日一冊本を読み、二日に一本映画見ていた。色々なことを考える時間がありすぎた。
 
小学校を卒業して家を出てから、こんな風に立ち止まったことがなかった気がする。
とにかく、生きていくのに一杯一杯で、その先にはきっと幸せな未来が待っていると思っていた。
幼い頃は親さえいなければ幸せな毎日が待っていると思っていたし、高校時代の後半は大学に受かって真面目な人間にさえなれれば、(正確に言えば、まともな人間だと社会が認めてさえくれれば)、新たな世界が待っているのだと思っていた。
 
そして、ついこの前までは、このままキャリアを積んでいきさえすれば、きっとバラ色の未来が待っているのだと思い込んでいた。
 
 
「私は私のいる場所をずっと求めてきた。それは誰だって同じ。別にあなただけが苦しんできたわけじゃない。だけどいくら求めたって、探したって、自分の居場所なんて見つかるはずがないのよ。どんなにいろいろな人と付き合ってみたって、自分の場所なんて誰も与えてくれないって・・・中略・・・
だったら私は訊きたいわ。あなたのいるここってどこなの。ここって一体何なの。確かに私は、あなたと一緒にいる場所が欲しかった。だけど。それはあなたと一緒にその場所を一緒に探そうってことじゃなかった・・・中略・・・
私はあなたにいつも言いたかった。あなたは目を凝らして、一体どこを見ようとしてるのって。あなたは、いまあなたがたっている場所から、そのあなたの足元からずっとつながっている世界しか見ることが出来ないのに、それでもあなたは一体何を見ようとしているのって。・・・私がまるであなたに何かひどいことでもしようとしているみたいに、私のことを否定して、私から逃げ出しただけ。私はあなたのようなひどい人に一度だって会ったことがないと思ったわ。」

「取るに足らない、ちっとも生まれてこなくてよかったこんな僕でも、僕のために泣いてくれる人のためだけにいきていけるのならば、どんなに安らげることだろう・・・枝里子のために自分の全てを捨てることができるのなら、なんと素晴らしいことだろう。
しかし、何がどうあっても、それだけは不可能なのだ。
彼らは一様に説いている。
ただ1つ、人が幸福になる道は自分自身より他の存在を愛することだと。だがそのさらに奥深く、彼らはこうも説いているのだ。
自分自身よりも他の存在を愛するときは、決して異性を愛するように愛してはならないのだと。・・・あたかも自分自身を愛するように愛さねばならないのだ、と。・・・・枝里子の言っていることは何一つ間違ってなかった。ただ、せめて言わせてもらうならば、僕が彼女を恐れたのは、彼女が僕に何かひどいことをしようとしているからではなかった。僕はただ、僕こそが、彼女にひどいことをしてしまうのを恐れていたのだ。」

 
白石一文著 「僕のなかの壊れていない部分」より